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月: 2012年12月

ツィメルマン。

今年はよくピアノを聞きにコンサートホールへ足を運びました。最後は、12月12日にすみだトリフォニーで聞いたクリスティアン・ツィメルマン。今年はドビュッシーイヤーということもあり、ドビュッシーメインのプログラム。

ドビュッシー/版画より
   1.パゴダ 2.グラナダの夕べ 3.雨の庭
ドビュッシー/前奏曲集第1巻より
   2.帆 12.吟遊詩人 6.雪の上の足跡 8.亜麻色の髪の乙女 10.沈める寺 7.西風の見たもの
シマノフスキ/3つの前奏曲(「9つの前奏曲 作品1」より)
ショパン/ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58

これまでピアノのコンサートに行くと、フラッシュバックが頻発するし、それに付随していろいろな思いがが去来して自分の不甲斐なさに涙ぐみ、「そこにいるのにいない」という状態になるのが常でした。が、最近ようやく曲に入り込めたり、曲を感じることができるようになってきたところでの今回のツィメルマン。いやーーー、楽しかったです!まさに身体全体が指になっているのを目の当たりにして感動しきりだったところへ最後のショパンの最終楽章で低音のテーマが出てきた瞬間には鳥肌が立つほどでした。久しぶりにピアノ音楽そのものの素晴らしさに涙が出ました。

音楽は聴くものだけど、視覚から入ってくるものもやっぱり大事だなぁ。弾き方、指や身体の使い方で音が全然変わるし、ずっとCDで聞いていた音楽に視覚が加わると情報量も一気に増えるし、勉強にもなる。素敵だった、感動した・・・は多々あれど、楽しかったと思えたコンサートはペライアに続いて2度目!なんか、どうでもいい例えだけど、我が家の初CDはa-haのHUNTING HIGH AND LOWだったんだけど、Take On Meを何度も何度も聞いていたその年の世界紅白歌合戦にa-haが出演していて耳だけで何度も聞いていた曲がTV画面の中で実際に人が演奏して歌っていたのを観た時の感動に似てる(笑。

それにしてもレッスン受けたいなぁ、とつくづく思いました。(あ、ツィメルマンのレッスンという意味ではありません。)練習は好きじゃないけど(笑)レッスンは大好きだったんだよな。先生の一言でがらりと変わる自分の音にアドレナリンが出っぱなしになるので、レッスン後はやたら饒舌になってたのを思い出した。

そして、ツィメルマンは本当に素晴らしいピアニストだし、今回のコンサートも大成功だったと思うけど観客に向かって演奏するタイプではないんだなと思いました。自分と、そしてピアノと向き合って会話をしながら弾いていたように感じました。まぁ、だからどうこうっていうのではなく、そう感じただけですが。それでも伝わってくるし、聞いている人を感動させてしまうってのもまたすごいです。

ポリーニ。

先日、約20年ぶりぐらいでポリーニの生演奏を聴いてきました。Pollini Perspectives 2012と題して4夜に渡ってベートーヴェンの後期ピアノソナタを弾き尽くしたうちの初日とラストの2度、サントリーホールへ出向いてきました。

初日はピアノソナタ第21、22、23番。正直、ガッカリでした。20年前と言ったら全盛期だった頃の演奏と、若い頃の録音でしか耳にしていなかったので期待値がすごい事になっていたせいもあるかもしれません。バリバリ弾いて、マシンだと言われてしまうような人に、円熟と枯れが加わったらどんな素敵なことになるんだろうとワクワクして行ったのです。が、最初のワルトシュタインからもう・・・なんだコレ、舐めてんのか?と思ってしまったほど。なんかね、たとえばソナタを弾きこなす程度の技術を持った人が、小さい頃に習ったブルグミュラーやトンプソンをさらりと弾いて見せた感じと言ったら伝わるかな。ちゃんとピアノと向かい合って弾いているんじゃなくてこの曲知ってる?アナタも習った?と弾いてみせる感じ。鍵盤の下まで弾き切らずに力を入れずにさらりと。ピアノが弾けると周りに知られて、あの曲弾いてみせてよと誰でも知っている曲をリクエストされ、でもそんな曲は敢えて習ってないから弾いたこともないけど、まぁチョロチョロっと弾いてみせるだけなら出来るかなと思って弾き始めたら意外と手こずった・・・みたいな。最後まで聞いてみれば、あぁ、きっと熱情まで弾き切るためには体力温存するしかなかったのかなと好意的に解釈できなくもなかったけど、それにしたって・・・。むしろ、あーもう最後の来日になるのかもしれないなぁ・・・と淋しくなってしまい。きっとそう思った人たちが多かったのでしょう。まさかのスタンディングオベーションが。

そんな初日だったので、まったく期待もせず、正直、友人を誘ったことを申し訳なく思いながら再び最終日のサントリーホールへ。この日はピアノソナタ第30、31、32番。最後の3つのソナタ。第30番は自分的にも思い入れのある曲なのですが、一瞬でひき込まれました。いや、実際にはちょっと無神経な観客がいたので若干・・・かなりイライラしてましたが。でも、いろいろなことを思い出しながら、やっぱりさすがだなぁと思わされた演奏でした。第31番は、ソナタ全曲の中で一番のお気に入りです。隣席でのまさかのクレームに一人ウケしつつも、静かになったので集中して聞けることに感謝(笑。第30番の終盤でも思ったけど、今回のポリーニは高音の煌めきが際立っていたように感じました。そして第31番、32番ともに・・・神様が降りてきたような、そんな至高の瞬間が何度もありました。いやいや、ポリーニさすがだわ。

初日と最終日と聞き比べて、もちろん本人の調子もあったにせよ、やっぱり超一流と言われているピアニストにも時代(年齢)によって相性のいい曲というか弾き時というのがあるんだなぁ、とつくづく感じました。ワルトシュタインにしても熱情にしても、弾き手にもそれだけの、ほとばしるぐらいの「熱さ」が必要で、“内に秘めた”熱さではダメなんだろうな。あの年齢のポリーニにはもう手に余るならぬ心に余る曲だったのかもしれない。逆に第30、31、32番あたりの曲はポリーニの枯れ具合とも心のありようともぴったりマッチしたものだったように思えました。

ということをずっと書こうと思いながら先延ばしにしていたのだけれど、今、紅白で美輪明宏の「ヨイトマケの唄」を聞いて心が震えたので勢いで書き上げました。

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帰りに友人と寄ったワインバーで、また幸せな時間を過ごした記念写真。

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大好きなChateauneuf-du-Pape。

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お店のマスターにお裾分けしていただいたポートワイン。

効率が是ではない時もあると思う。

いきなりですが、私、仕事に対する自信は常にゼロです。顔つきなのか態度なのか、何かにつけ割と自信たっぷりに見られますが、実はこれまでのどのお仕事でも自信があったことなどありません。特に今の仕事は、私の苦手な数学・物理学の世界であり、さらに大の苦手な3Dの世界でもあり苦手意識は生半可なものではありません。なので、関わる全ての相手から吸収すべきことがあり、いつでも学び教わる気持ちでいるわけです。それなのに、いかに楽をするか、いかに利益を残すかということしか考えていない人が多すぎて困っています。

ひとつ前のプロジェクトでのこぼれ話をつい最近耳にしました。その仕事を取ってきた人が自社の幹部に怒られたそうです。「こんな仕事取るな、断って来い!」これしか利益の出ない仕事、しかも扱える人間が社内にいないのに取ってきてどうするんだ、と。そこでその人の先輩が「概算表を書き換えろ、この3倍利益が出るように見せろ」と指示を出し、扱える人間がOBにいるからということで連絡をとりクライアントにもその価値を理解させ、外野の野次を物ともせず受注してしまったそうです。

実際に仕事が始まった時にそのプロジェクトを任された後輩には「利益のことは一切考えなくていいから、すべてOBの言う通りに動け」と言い放ち、そうこうしている間に、最初に茶々を入れた幹部はどこかへ転勤になってしまいました。結果的にクライアントも大喜び、新しくやって来た幹部も大喜び、今後は自社の宣伝として使いたいということで、会社の役にも立てたようです。

その「先輩」のような、いい物を作るためには利益を度外視した多少の強引さも必要なはずの職種なのに、目先の利益のことしか考えず、さらには手間も惜しむのならば、効率化が是である分野への転職をお勧めしたい。いや、まぁそういう「いい物」を作る仕事はそうそう回ってこないらしいので、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどさ。