12年前、長年の相棒だったピアノを売りました。そのお金で一人暮らしを始めました。ピアノをやめて5年以上が経っていたし、別にもうピアノを弾かなくても全然平気だと思ってたのです。いや、正直に言えば、いつまでも家にピアノがあると未練を捨て切れないから、むしろその存在をなくしてしまった方がスッキリすると思ったんだよね。最初はまったく平気だったし、何年か経ってやっぱり指を動かしたいなと思った時も電子ピアノでじゅうぶんだと思ったし、実際買ったものの結局弾かなくなって、次の引っ越し時にサクッと売り払いました。
ピアノをやめる時、いつかまた戻ってやると思っていました。ピアノは私の人生を方向づけ、精神的にも物理的にも大きく拡げたけれど、その分、私の心を傷つけもしたし苦しめもした。今はピアノと向かい合うことは出来ないけれど、いつかまた戻るんだと思っていました。その間にはピアノを弾いていたら出来ない経験だってしているはずで、もっと幅の広い、懐の深い演奏が出来るようになっているはずだと。でも、あっという間に時が経ち、ピアノを売り払い、ピアノに戻るなど現実的ではないということも頭では理解していたけれど、それでも終わらせるつもりはなかったのに。せめてピアノを弾いてきた年月分が経ってしまう前にはと、ずいぶんと悠長なことを考え始めたのはいつの頃だったか。心のどこかでは、その間ずっと動かしていなかった指は、もうあの頃のようには動かないだろうことも分かっていました。
それでもピアノが欲しい、その気持ちはずっと心の片隅にあり続け、でもピアノを買う前に、ピアノを置く部屋が必要で、それにはマンションなり一戸建てなり、持ち家が必要なので、そうなると宝くじでも当たらない限りは無理だろうなぁと思っていたのです。その割には宝くじは買っていなかったけれど、それでも自分の部屋にピアノを置きたいというのは何度も忘れた頃にぶり返し・・・一体何年過ぎたのやら。
そんな夢物語のような存在になり果ててしまったピアノを、今回、本当に買うことを検討し始めたきっかけは、小中の同級生のお店へ行ったことだったと思います。当時は音楽なんてまったく縁がなかったはずの同級生が、お店でのライブに飛び入りで参加したのを見て、あぁ、音楽の楽しさってこういうことだよなぁって思ったこと。ピアノが置いてあるお店に行っても弾くことができない自分を不甲斐なく感じることは多々あったけれど、私がピアノを弾いていたことを知っている友人の前ですら弾けないことが、なおさらその不甲斐なさを強くしたんだと思います。あーやっぱりピアノ欲しいなぁ、こういうところでもサラリと弾けるようになりたい。そう痛感した3ヶ月後に行ったお店に、実はグランドピアノが置いてあり、マスターご夫妻といろいろお話をしていたのだけど、ちょうど、他のお客さんがいない時間があり、弾いていいですよと言ってくれたので恥ずかしいけれど楽譜も借りてポロポロと弾いてみました。
実は「あぁ、これはもう手遅れだな」と思いました。もう戻るには遅すぎる。分かり切っていたことだけど本当に痛かった。だけど、マスターは10年弾いていないということがどういうことかは分かるだろうと思ったので、もう恥を捨てていろいろな曲を弾いてみました。そうしたら、ほんの30分ぐらいだったんだと思うのだけど、指の重さが変わったのを感じました。まだ指が覚えてると思いました。やっぱり欲しいなと思ってしまいました。
そして、次の週末に中古ピアノ専門店へ向かいました。何十台と並んだピアノのあるフロアで、お店の方に希望を伝えました。欲しいものは決まっていたけれど、お金とスペースの都合で、それが買えるのかどうかは分からないし、そこまで思い切れるかどうか覚悟も決めていませんでした。絶対に譲れないのはサイレント機能が付いていることなのだけど、グランドピアノなのかアップライトなのか、ていうかそもそも本当に買うの?そんな状態の私に、ダーリンもお店の人も根気よく付き合ってくれました。
私が一番欲しいのは入荷してもすぐに売れてしまう人気商品。前日にも売れてしまったけれど、実はまだリストに載せていないのがリストア前のが一台あるらしい。でもグランドピアノとしてはグレードの低いもので、それであればアップライトの高級グレードを買った方が良いのではという意見もありました。それでも、やっぱり今更アップライトなんて無理だし、そこで満足できるわけがないことは分かりきっているのです。その差20万円ほど。その程度であれば、やっぱりグランドなんじゃないかなと思う気持ちはあるけれど、次に引っ越す時にネックになるんだろうなと思うと決めきれない。私もダーリンも家を買うことにはまったく興味がないというところでは一致しているのだけど、ピアノということだけで考えると、私は恵まれた家で育ったんだなぁと思わずにいられません。とりあえず1週間ぐらい考えさせてください、と言ったら、4~5日で決めてくださいと言われ(笑)、とりあえず両方の見積もりを出してもらい、もしかしたらどちらも買わないという決断もあり得ることも匂わせつつ、長時間付き合ってくれたおじさんに感謝して辞去。
と言いつつ、帰りの電車に乗る頃にはグランド買うって思ってたけど。でも思えば思うほどどんより。何がどんよりって貯蓄額が減ることです。だって自転車買ったばっかりだし。ピアノ買うために貯めてたと言っても過言ではないはずなのに、こんなに大きな買い物をしたことがないので、お金を使うということに凹むのです。でも、買わないとますます思いが募るだけなので、意を決して買わないと!
というわけで、翌日「グランドにします!」と電話しました。オーバーホールし終わったら配送日を決めるための電話をするので、それまでに支払いを済ませることを約束して契約成立。1ヶ月はかからないということだったけれど、お盆もあるので配送業者との兼ね合いもあり日にちは予測できず、でも先日、6日以降いつでもという連絡がきたので、6日で!とお願いしておきました。毎日、早く6日にならないかな、早く時間が過ぎないかなと思い続け、ようやくこの日がやってきました。
玄関から入れるのに苦労していたのでどうなることかと思いましたが、組立はあっという間でした。脚を取り付け・・・
2ヶ所取り付けたところで起こしてから
最後の1本を取り付けるのですね。
仮置き。
置く位置を決めてからペダルも取り付け。
完成!
ここまで長かったなぁ。再びピアノのある生活が始まります。
ダーリンはもちろん、我が家の猫もピアノとともに暮らすのは初めてなので興味津々。
何これーー。
すべすべー。冷たいーー。テンション上がってます。
爪は立てないでね?
これはボクの特大ひんやりマットに違いない。
気に入ってくれたみたいで何よりです♪
そこは乗っちゃダメなとこ。
せっかくなのでワインで乾杯♪
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